「足元を見つめ直す、パフォーマンスのヒント」  
博士研究員 山﨑陽平

2025.08.12

私は、順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科にて博士前期課程および後期課程を修了し、2025年4月より当研究所の博士研究員に就任しました。私はこれまで、ランニングのパフォーマンスや障害予防に関わるバイオメカニクス研究に興味を持ち、柳谷登志雄教授のもとで、足部とシューズの構造や機能との関係に着目した研究を進めてきました。今回のコラムでは、私がこれまで取り組んできた研究テーマの一つについてご紹介したいと思います。

私たちの足は「立つ・歩く・走る・跳ぶ」など、さまざまなシチュエーションで唯一地面と接している身体の部位です。また、かの有名なレオナルド・ダ・ヴィンチが “The human foot is a masterpiece of engineering and a work of art.”(「人間の足は、工学の傑作であり、芸術作品である。」)という言葉を残したように、足は、複雑で精密に作られた仕組みを持っており、その働きの多くがいまだ完全には明らかにされていません。こうした足の複雑な構造と機能の中でも、私が特に注目している未解明のテーマの一つが「浮き趾 (うきゆび)」です。

正常な足趾(左)と浮き趾(右)の人の足圧画像

皆さんは、「浮き趾」という言葉を聞いたことはありますか?
浮き趾 (Floating toe)とは、立っている際に足の指が地面に着いていない状態のことを指し、日本人を対象とした研究によると、子どもの40%、一般成人では28%ほどの人が浮き趾に当てはまると報告されています(Fukuyama et al., 2011; Tasaka et al., 2016)。
生活環境や運動頻度、下肢の筋力などが浮き趾の原因として考えられているものの、このテーマに関する研究はまだ少なく、なぜ浮き趾になるのかといった詳細は十分に解明されていません。しかし、浮き趾は姿勢の不安定性や足趾筋力の低下などと関係することから(Saito et al., 2016; Tasaka et al., 2016; Uritani et al., 2017)、走能力などの運動機能の低下とも関連するのではないかと考えられてきました。

そこで、私の博士課程での研究では、陸上競技選手の競技力と浮き趾の程度の関係を調べ、浮き趾が走能力とどのような関係にあるのかを検討しました。しかし、実際に400人以上の大学生陸上競技選手を対象に調べた結果、両者の間には有意な関係が認められないことが明らかになりました(Yamazaki et al., 2025)。
私の研究では大学生陸上競技者を対象としているため、子どもや高齢者では運動機能とどのような関係があるのか、また実際の運動動作中に足の指がどのように機能しているのかを明らかにすることが、今後の課題です。今後もこうした研究を通じて、障害予防やパフォーマンス向上に役立つ知見を社会に発信していきたいと考えています。