コロナ禍でのニューノーマル -オンライン運動指導・運動誘導の取り組みー
博士研究員 沢田秀司
順天堂大学は、平成25年度(2013年度)より文部科学省および科学技術振興機構(JST)によって開始された、10年後の目指すべき社会像を見据えたビジョン主導型の研究開発を支援するプログラムである「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」の参画拠点機関として活動しています。これまで、立命館大学とともに「運動の生活カルチャー化により活力ある未来をつくるアクティブフォーオール(active for all)拠点」を形成し、ロコモティブシンドローム(運動器症候群、略称:ロコモ)の予防・改善策の開発に向けた研究活動に取り組んでまいりました。そして、「ロコモ予防・改善のための健康・医療イノベーションーロコモの⾒える化と予防により寝たきりゼロー」との目標を掲げ、順天堂大学スポーツ健康医科学研究所も拠点を置くさくらキャンパス周辺地域の住民の方々にもご協力いただきながら、生涯自力で動き続けるための体づくりに寄与する運動プログラムの開発や、開発したプログラムの社会実装を進めてきました。運動プログラムについては、自体重筋力トレーニングを中心に実施する「ロコモ予防運動プログラム」を確立し、著名な国際誌にて研究成果を公表しました1)。こうした研究活動を続ける最中、世の中ではCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染が拡大し、そのことに端を発した新たな生活様式への対応が求められることとなりました。
我々がこれまでに実施してきた運動指導は、大学や体育館、保健センターなどの会場に集まっていただき、対面式で実施する形をとってきました。しかし、コロナ禍においてはそうした開催方式が困難となり、運動指導のあり方も見直すことが求められました。「ロコモ予防運動プログラム」の中心的な内容である筋力トレーニングについて、新しい生活様式では「筋トレやヨガは、十分に人との間隔を、もしくは自宅で動画を活用」という実践例が示されています2)。コロナ禍にあって、トレーニングに関連した映像コンテンツは、世界中から発信されました。いつでも見られる優れた映像コンテンツが多数存在することは、既に運動が習慣化している方々や、運動を実施する目的が具体的かつ明確な方々にとっては特に、非常に有益であろうと考えられます。しかし、令和元年国民健康・栄養調査によると、運動習慣のある者の割合は、男性では33.4%、女性では25.1%であると報告されています3)。すなわち、20代以上の国民の約7割は運動習慣がなく、上記のようなコンテンツも十分に活用できない可能性があります。また、動画の視聴だけでは運動の質の担保が難しく、双方向性の指導が困難であるという課題も残ってしまいます。
こうした社会的課題に対し、我々が着目したのが、オンラインでの運動指導・運動誘導という形です。以下、我々が実施してきた二つの取り組みについて、紹介いたします。
一つ目の取り組みは、順天堂大学・東京藝術大学・立命館大学の三大学連携事業として開発を行った、webアプリ「Biosignal Art」です(図1)4)。このアプリは、自宅などにて一人で実施する運動の質や楽しさを高め、運動人口を増やすことを狙いとしています。運動(スクワットやショルダープレスなど)をしている姿をPCやスマートフォンのカメラで撮影すると、点数や芸術表現に変換され、運動の良し悪しを知ることができる仕組みです。
Sports×Art×Technologyの融合により、理に適った動作ができているかどうかを手軽に把握することができ、芸術表現も楽しみながら継続していただくことが期待できます。本アプリは、2020年4月7日に緊急事態宣言が発出された後に開発がスタートしました。会議も全てオンラインで実施し、メンバーが対面で一堂に会することは一度もないまま、スタートから僅か1ヶ月という短期間で公開に至ることができました5)。今後もより多くの方々の運動継続に貢献するべく、評価可能な運動種目の追加や、評価方法の改善、芸術表現の拡充などの対応を進めていく予定です。
もう一つの取り組みは、webサイトを通した情報発信や、ビデオ会議システム(Zoomミーティング)による双方向通信を活用したオンライン運動教室の開催です。既述の「ロコモ予防運動プログラム」の意義や実施方法、さらに関連する知見についての情報提供を行うことを目的として、2020年5月に「順大さくら“筋活”講座」という名称のwebサイト6)を開設し、同年7月に一般公開いたしました7)。また、2020年7~10月には月1回の頻度でオンライン公開講座を企画し、webサイトを通して周知したところ、約500名の方々にご参加いただくことができました。
こうしたオンライン上での発信を続ける中で試行錯誤を重ね、2021年1月から、Zoomミーティングを活用した筋力アップを目的とするオンライン運動教室を開催してきました(図2)。2020年度のオンライン運動教室は6つのコースに分けて実施し、のべ27名(男性13名、女性14名、平均年齢:69.7(±5.6)歳)の方々にご参加いただきました。参加者の皆様は必ずしもICT機器の使用に十分慣れていた方ばかりではありませんでしたが、ご家族や我々がサポートすることで円滑にご参加いただくことができ、前向きなご感想を多数頂戴することができました。また、取り組みの成果を客観的なデータでも把握するため、教室の開催前後にオンラインでの測定・評価も実施し、現在データ解析を進めています。
これまで、対面式の運動教室に参加していただけるのは、順天堂大学さくらキャンパス周辺にお住まいの方々が中心となっていました。しかし、オンライン開催としたことで、首都圏以外の地域からもご参加いただくことができました。「新しい生活様式」への対応を図る上でも、「ロコモ予防運動プログラム」に取り組んでくださる方々の居住地域や世代を広げていく上でも、オンラインでの取り組みに注力していくことは必要不可欠であると認識しています。
今後も、人々との繋がりを大切に、社会をより良い方向へ導くことに少しでも貢献できるよう、こうした研究活動を続けてまいります。
<引用文献>
1)Ozaki H, et al. Muscle Size and Strength of the Lower Body in Supervised and in Combined Supervised and Unsupervised Low-Load Resistance Training. J Sports Sci Med. 2020 Nov 19;19(4):721-726.
2)厚生労働省. 「新しい生活様式」の実践例. (2020年6月19日改訂)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_newlifestyle.html(閲覧日:2021年4月16日)
3)厚生労働省. 令和元年国民健康・栄養調査結果の概要. (2020年10月27日公開)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_14156.html(閲覧日:2021年4月16日)
4)「Biosignal Art」webサイト
https://www.biosignal-art.net/(閲覧日:2021年4月16日)
5)順天堂大学プレスリリース. Sports×Art×Technologyで運動を点数や音楽表現に変換し、楽しく継続することができるアプリを開発. (2020年5月20日公開)
https://www.juntendo.ac.jp/news/20200520-01.html(閲覧日:2021年4月16日)
6)「順大さくら“筋活”講座」webサイト
https://juntendo-kinkatsu.com/(閲覧日:2021年4月16日)
7)順天堂大学プレスリリース. 自宅で“筋活”をおこなってロコモ予防を!筋肉量と筋力の向上を目指す「ロコモ予防運動プログラム」が始動. (2020年7月10日公開)
https://www.juntendo.ac.jp/news/20200710-01.html(閲覧日:2021年4月16日)