フレイル予防の三重奏 ~早めに気づく、科学的に動く、あきらめずに続ける~
博士研究員 劉 振岳

2026.02.03

私は順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科で修士課程・博士課程を修了し、2025年4月より順天堂大学スポーツ健康医科学研究所にて博士研究員として研究に従事しています。大学院に進学以来、「健康寿命の延伸」と「生活の質(quality of life, QOL)の向上」に資する研究を進め、その成果を社会に還元することを志向しています。修士・博士課程では、その一環として高齢者のフレイル予防に焦点を当ててきました。今回のコラムでは、これらの研究について紹介したいと思います。

皆さんはフレイル(frailty)という言葉をご存じでしょうか。フレイルとは、加齢に伴う生理的予備能の低下により、さまざまなストレスに対する脆弱性が高まった状態を指します¹。簡単に言えば、以前なら問題なく乗り越えられた軽微な健康上のトラブルをきっかけに、心身の機能が落ち込みやすく、回復力も低下して元の状態に戻りにくくなる状況です。フレイルは健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されずに過ごせる期間)の延伸に支障し、QOLの低下や要介護リスクとも関連するとされますが、一方で早期ほど改善が期待できるため、「早めに気づく」ことが予防の出発点になると考えられます。また、バランス能力は重要な体力要素の一つであり、筋力や柔軟性と同様に日常生活動作の遂行を支える基盤となります。私はフレイルの早期予防の観点から、バランス評価の一つである開眼片脚立位テスト(one-leg standing test, OLST)に着目しました。OLSTは、平らな床で片脚立位を行い、姿勢を保持できる時間を測定する方法で、汎用性が高く、臨床現場や地域で広く活用されています。そこで私の研究では、OLSTがフレイルの早期発見に活用できるかを検証した結果、地域在住高齢女性においてOLSTが短いほどフレイルの可能性が高く、解析に基づき24秒がスクリーニングの目安として示されました²。では、ここまで読んでくださった方は、早速ですが片脚で24秒立てるかどうか、試してみませんか。

もし目安に届かなくても、不安になる必要はありません。体力は運動によって改善・向上が期待できるため、大切なのは「科学的に動く」ことだと考えられます。これまで私たちの研究グループでは、自分の体重を負荷として用い、ゆっくりとした動作で行う筋力トレーニング(自体重トレーニング)プログラムを開発してきました。このプログラムは、スクワットをはじめとする下肢種目を中心に、全身を動かす運動で構成されており、特別な器具を必要としないため高齢者でも取り入れやすい点が特徴です。週1~2回の頻度で12週間実施することで、筋量・筋力の向上が報告されています³。私は筋機能だけでなく、自体重トレーニングがバランス能力に及ぼす影響にも着目して検証しました。その結果、自体重トレーニングにより、高齢者の下肢筋力の向上に加えて、開眼・閉眼のOLSTで評価されるバランス能力も改善することが示されました⁴。以上より、自体重トレーニングはフレイルの改善・予防に向けた実践的な選択肢の一つだと考えられます。

自体重トレーニングを用いた高齢者運動教室

運動の効果は、適切に取り組めば短期間でも得られる一方で、いったん中断すると、得られた効果が時間とともに弱まったり失われたりすることもあります。そのため、科学的な運動を「あきらめずに続ける」ことが、フレイル予防の成果を維持する鍵になります。私たちの研究グループはコロナ禍に、Zoomを用いた高齢者向けのオンライン運動教室を実施しました⁵’⁶。運動プログラムには自体重トレーニングを採用し、教室終了後には自主運動期間を設けて運動継続の状況を追跡しました。その結果、遠隔での運動指導でも身体機能の改善が期待できるだけでなく、教室終了後も運動が継続され、身体機能の維持・さらなる改善につながる可能性が示されました⁷。実際に私たちの研究グループは、順天堂大学さくらキャンパス周辺地域(富里市、成田市、佐倉市など)において、高齢者を対象とした運動教室を長年にわたり実施してきました。運動教室の修了者が卒業生サークルを立ち上げ、週1~2回の頻度で自主的に運動を継続しており、最長で10年以上に続けている方もいます⁸。さらに一部の方は、我々が実施する指導者養成講座を修了し、シニア指導員として運動指導や体力測定会の運営補助にも参加してくださっています。こうした取り組みを通じて、参加者同士が支え合いながら運動を続ける土台が地域の中で育っていることを実感します。卒業生サークルの皆さんは、フレイル予防における運動継続の大切さを体現する、心強いモデルケースだと思います。

成田市シニア健康カレッジ10年記念大会

最後に、当該分野の今後の展望について触れたいと思います。健康長寿の鍵は、単に寿命を延ばすことではなく、健康寿命をいかに延ばすかにあります。そのためには、体力医学・運動生理学と老年医学・予防医学をつなぎ、さらに人工知能(Artificial Intelligence, AI)や工学系技術(ウェアラブル、遠隔モニタリング、支援ロボット等)を組み合わせて社会に実装していく学際的連携、すなわち新技術に支えられた「体医融合」が重要になると考えています。AIの普及と医療技術の進歩により、長寿は今後さらに身近になっていくでしょう。心身の健康を保って年を重ねられれば、時代の進歩がもたらす恩恵をより多く体験できるのではないかと思います。

【引用文献】
1. Clegg A et al. Frailty in Elderly People. Lancet. 2013, 381(9868):752-762.
2. Liu Z et al. One-Leg Standing Test with Eyes Open as a Screening Tool for Prefrailty in Community-Dwelling Older Japanese Women. Healthcare. 2024, 12(23):2378.
3. Ozaki H et al. Muscle Size and Strength of the Lower Body in Supervised and in Combined Supervised and Unsupervised Low-Load Resistance Training. J Sports Sci Med. 2020, 19(4):721-726.
4. Liu Z et al. Effect of Body-Weight-Based Resistance Training on Balance Ability and Fear of Falling in Community-Dwelling Older Japanese Women. Sports. 2025, 13(1):8.
5. 順天堂大学スポーツ健康医科学研究所Science Café-リレーコラム-.コロナ禍でのニューノーマル-オンライン運動指導・運動誘導の取り組みー (https://research-center.juntendo.ac.jp/hss/column, 2026年1月31日に閲覧)
6. 『順大さくら“筋活”講座』ウェブサイト (https://juntendo-kinkatsu.com/, 2026年1月31日に閲覧)
7. Liu Z et al. Effects of Online Supervised Slow-Movement Bodyweight Resistance Training Followed by Self-Directed Exercise on Physical Function in Older Adults: A Pilot Study. Healthcare. 2025; 13(23):3091.
8. JUNTENDO News & Events. 成田市制施行70周年記念『シニア健康カレッジ10年記念大会』に町田修一教授、沢田秀司助教が登壇しました!2024年5月7日に公開 (https://www.juntendo.ac.jp/news/18422.html, 2026年1月31日に閲覧)