アスリートの足首を守る、縁の下の力持ち
博士研究員 野津将時郎

2021.10.12

私は、2014年に北海道大学(理学療法学)を卒業し、筑波大学大学院にて修士課程(体育学)と博士課程(スポーツ医学)を修了しました。大学院在学中には、オタゴ大学大学院(ニュージーランド)とアイオワ大学大学院(アメリカ)で研究留学の経験を積みました。そして、2021年4月より順天堂大学スポーツ健康医科学研究所の博士研究員に就任し、髙澤祐治教授(スポーツ医学)のもとで研究活動を行っております。理学療法士・日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー・研究者として、活動しております。

さて、今回のコラムでは、筆者自身の活動をご紹介致します。私が力を注いでいるテーマは、「足関節捻挫の再発予防」です。足関節捻挫は、足首を覆っている靱帯が損傷した状態で、最も発生率が高いスポーツ外傷であると言われています。また、再発を繰り返しやすいことが大きな特徴であり、それによって足関節の不安定感や痛みなどの症状が慢性化し、足関節症(足OA)へと進行する確率が高くなると危惧されています。さらに、このような状態が続けば、生活の質が低下します。私たちの研究室が行ったアンケート調査では、順天堂大学さくらキャンパスに所属する大学生アスリートで足関節捻挫を経験したアスリートの約8割以上が再発を経験していたことが分かりました。順天堂大学アスリートの足首を守ることが私たちスポーツ医学研究室の使命であるといっても過言ではありません。

ひとたび足関節捻挫を起こすと、足関節の可動域(関節の曲げやすさや伸ばしやすさ)が制限される、筋力やバランス能力が低下するなどの身体機能障害が認められます。特に、バランス能力(身体をうまくコントロールする能力)が低下することは、スポーツ外傷・障害発生のリスク因子として知られているため、的確な評価や介入(治療)が必要となります。

一口に、「身体をうまくコントロールする能力」と言っても、それを定量化(データ化)することは簡単ではありません。身体のコントロールを説明するためには、身体の各部位(体幹、下肢、上肢など)がどのように動いているのかを、図のようにモデル化し、身体重心位置(いわゆる重心)の動きを説明しなければなりません。また、このような解析には、三次元動作解析装置や床反力計、筋電計など高額で精密な機器を用いる必要があります。これらの技術を用いて、足関節捻挫後のバランス能力を解明することで、適切な運動療法プログラムの開発につながります。現在、教員・研究員と協力し、この難しい課題に挑戦しています。筆者の知る限り、世界でも、この挑戦的な課題に取り組んでいるチームはそう多くありません。近い将来、順天堂大学から世界に向けてこの研究成果を発信できるよう邁進してまいります。


もう一つ、筆者の取り組みとして、さくらキャンパス内にあるAthletic Training Room(ATR)での臨床実践活動があります。ATRでは「慢性的なスポーツ障害相談窓口」を開設し、学生アスリートからの相談を随時受け付けています。筆者は、理学療法士・アスレティックトレーナーとしてアスリートが抱える身体的な問題(特に足関節不安定性)に対する評価、治療、そして運動指導などを実施しています。研究を臨床に応用することや臨床から研究のヒントを得ること、また症例・介入成績の蓄積は、立派なエビデンスの構築につながります。このような臨床実践活動を通して、陰ながらではありますが、アスリートのサポートを続けたいと思います。

「足関節捻挫の再発予防」というテーマは、スポーツ医学界が抱える問題の中でも非常に大きく、難解な課題です。しかし、順天堂大学には国内外で活躍する優れた教員・研究者・指導者が所属しており、ハイレベルな施設設備があります。筆者が見てきた海外の大学・研究施設にも引けを取りません。このような環境に身を置けることを幸運に感じるとともに、さらに精進して自身の足元(地盤)も固められるような研究・臨床活動を継続したいと思います。順天堂大学のスポーツ医学が世界をリードするため、縁の下の力持ちのような存在となり、これからも尽力し貢献していきたいと考えています。

            慢性的なスポーツ障害相談対応の様子(ATRにて)