遺伝情報を加味した栄養指導の確立を目指して
博士研究員 寶川 美月

2022.10.24

 


同じような食生活をしているのに、「なぜあの人はあんなに健康なんだろう」または、「なぜ太らないのだろう」などと感じたことはないでしょうか。また、現在、数多くの健康法やダイエット方法が紹介されていますが、あの子は成功したのに自分は全然成果が出ない。。。といったような経験をしたことはないでしょうか。

 

このような個人差に対して「体質だからしょうがない」と片づけられることが多いなと私は感じております。本当にしょうがないことなのでしょうか?多くの体質(形質)は環境要因や遺伝要因による総合的な影響を受けます。ですので、栄養に関わる遺伝要因(遺伝栄養学)に着目することで、個々人の最適な栄養管理が実現し、上記のような問題が解決できるのではないかと考えています。

遺伝とは、ある種の形質が親から子へと受け継がれる現象のことで、この形質の設計図にあたる物を遺伝子といいます。ヒトの遺伝子は約30,000個あると考えられており、たとえ親子が似ているといっても遺伝子が100%同じということはありません。この遺伝子1つ1つの個人差が形質に影響を及ぼしています。例えば、目の色の場合、黒や茶色、青などがありますが、この色は個々人がもっている遺伝子によって決まっています。つまり、目の色に関連する遺伝子の個人差(違い)が目の色の多様性を作り出してます。決して、形質は遺伝要因だけで決まっているわけではないですが、遺伝要因が形質の決定に関与していることは明らかです。

遺伝子の個人差は栄養素の吸収率や摂食行動にも関わっていることが様々な研究により明らかになっています。現在、私は鉄状態に関わる遺伝子に着目して研究を進めており、鉄状態に関与する遺伝子の個人差が、筋線維組成の個人差に関連していることを明らかにしました(Takaragawa et al., 2022.)。筋線維組成は生活習慣病のリスクと関連していることが明らかになりつつあり、遺伝情報に基づき個々人に最適な鉄摂取量を確立できれば健康増進につながる可能性があります。また、筋線維組成は競技の特性と関連しています。ですので、アスリートに対し、遺伝情報に基づいた栄養指導を行うことができれば、競技力向上に貢献できる可能性もあります。

まとめると、栄養に関わる遺伝子を解明し、その遺伝情報を使用することにより、生活習慣病や競技力向上のための個々人に最適な栄養管理法を提供できる可能性があります。これは、個々人にとって最適な健康方法やダイエット方法、効率的な競技力の向上方法を選択するうえで助けになるでしょう!しかし、これを確立させるためには、研究しなければいけないことはたくさんあります。ですので、共同研究でも被験者さんとしてでも一緒に研究できれば幸いです。興味があれば、ぜひご連絡ください。

将来、栄養学やスポーツ栄養学と遺伝学を組み合わせた研究により、本邦が直面している生活習慣病問題の解決や国内問わず活躍するアスリートのために貢献できるように日々精進してまいります。