第11回プログレスミーティング 静岡災害医学研究センター研究報告会
会 場:順天堂大学医学部附属静岡病院 オンライン同時開催(Zoom)
主 催:順天堂大学大学院 医学研究科 静岡災害医学研究センター
参加人数:14名
当研究センターの研究者による、現時点での研究進捗報告会を開催いたしました。
演題1:人種・民族の耳垢型決定遺伝子ABCC11多型差異と中耳真珠腫発症リスク
~日独間におけるABCC11多型の比較~
順天堂大学医学部附属静岡病院 耳鼻咽喉科
教授 楠 威志
【アブストラクト】
ABCC11タンパク質はATP binding Cassette Transporterで、細胞膜に局在し、異常タンパク質など(薬物を含め)の排出機能がある。アポクリン腺に発現して代謝物を腺内腔に向けて輸送する。アポクリン腺は、外耳道、腋窩、乳腺などにあり、アポクリン腺にABCC11が多いと湿性耳垢となり、腋臭症が多い。ABCC11 遺伝子多型(538G>A)が耳垢の性状(湿性もしくは乾性)を決定することがYoshiuraら(Nature Genetics 38:324-330,2006)によって報告された。16番染色体におけるABCC11遺伝子のー塩基多型(SNP)である538G>AがGGホモあるいはGAヘテロであれば湿性耳垢、AAホモであれば乾性耳垢となる。
本研究では、ABCC11遺伝子多型に伴う耳垢の乾湿の違いが、中耳真珠腫の発生リスクに影響を与える可能性について検討した。欧州においては、日本と同レベルの生活・医療水準を有するドイツとの国際共同研究をすでに展開しており、今回、日独間におけるABCC11多型の比較について呈示する。その結果と緒家の報告をもとに世界の人種・民族間でのABCC11遺伝子多型の差と中耳真珠腫発症リスク、さらに人類誕生からの生活様式の変化とABCC11遺伝子多型の推移について検討し、日本人のルーツについても言及する。
演題2:診断·治療における免疫抑制細胞の可能性と
災害時熱中症への新たな予防戦略となる機能性成分研究
静岡災害医学研究センター 研究支援者 岩澤 卓弥
(東洋大学ライフイノベーション研究所 研究助手)
【アブストラクト】
がん微小環境では、様々な免疫抑制機構が増強されていることで我々が本来有している抗がん免疫系の機能が十分に発揮されていない。この免疫抑制を引き起こす細胞として近年注目されているのがMDSCと呼ばれる未成熟な免疫抑制細胞集団である。
夏季の災害時には熱中症のリスクが非常に高くなり、温暖化が進んでいる世界全体でその対策が急務となっている。in vivoのスクリーニング実験系を構築し、熱中症を予防できる機能性成分の探索を行い、ヒト臨床試験まで実施した。
本プログレスミーティングでは、がんにおける免疫抑制細胞の診断・治療標的としての可能性と、熱中症予防に有効な機能性成分の臨床試験成果を紹介する。