研究概要
日本人女性で“痩せ”の割合が年々増加しており、先進諸国の中でも特殊な痩せ傾向が続いています。肥満が様々な疾患の原因となっている一方、近年の報告により、女性の痩せにより糖尿病や転倒・骨折の発症リスクが高まることが明らかとなっています。本研究では、痩せた女性に潜在する様々な疾患リスクとその原因を明らかとし、オーダーメイド型の介入方法の開発を目的として研究を進めています。
研究の背景・目的
近年、世界的にも問題となりつつあるのが、女性の“痩せ”です。特に我が国では、先進国の中で最も女性の痩せ傾向が進んでおり、日本人女性の8人に1人、若い女性では驚くべき事に5人に1人以上が“痩せ”と判定されています。痩せた女性は骨粗鬆症や転倒・骨折のリスクになることが知られており、“痩せ”と骨に関する研究は多くなされてきています。その一方で、我が国では太った女性と同様に、痩せた女性においても糖尿病の発症リスクが高いことが報告されています(Diabetol Int, 2012, Diabetes care, 2008)。例えば、痩せた女性は、標準体重の女性と比較して、糖尿病の発症リスクが2倍近く増えており、BMIと糖尿病発症リスクはUカーブを示すと報告されています。しかし、痩せた女性がなぜ糖尿病になりやすいのかは、不明の部分が多く残されています。本研究では、痩せた女性に潜在する様々な疾患リスクとその原因を明らかとし、オーダーメイド型の介入方法の開発を目的として研究を進めています。
研究の成果
本研究では、20代の痩せた若年女性31名と50~65歳までの痩せた閉経後女性30名を主な対象としました。対象者には、糖尿病かどうかを判定する検査の一つである75g経口ブドウ糖負荷試験を実施するとともに、2重エネルギーエックス線吸収測定法による骨量測定(DXA法)、プロトンMRS法による異所性脂肪測定(脂肪肝、脂肪筋)、などを実施しました。その結果、若い痩せた女性と比較して、痩せた閉経後女性では、糖負荷後2時間後に140mg/dL以上となる耐糖能障害を来す人が多くおり、測定した人の37%(30名中11名)が耐糖能障害であることが明らかとなりました。同じくらいの年代の一般女性における耐糖能障害の割合は17%程度であることが報告されており(Diabetes Care, 1993)、それと比較して高い割合となっていました。さらに、痩せた閉経後女性で、どのような人がより高血糖になりやすいかを解析した所、インスリン分泌が低いことに加え、除脂肪体重(全身の筋肉の量を反映)が少ない人、筋細胞内脂質(脂肪筋)が多い人ほど、血糖値が高いという関連性を認めました(図参照)。
筋肉は人体の中でブドウ糖を貯蔵する最大の臓器です。痩せた女性で筋肉量が少ない人では、食後十分な量のブドウ糖を取り込めず高血糖を来す可能性が考えられます。また、筋への脂肪蓄積は骨格筋の質の低下(インスリン抵抗性*2)を引き起こし、高血糖を惹起させうることが知られています。以上より、痩せた女性の中で、筋肉の「量」の低下や、「質」の低下が生じている人がおり、そのような人では高血糖を来しやすい可能性がある、と考えられます。