老研セミナーのお知らせ:イメージングによる細胞膜上でのタンパク質構造解析 NIH 小橋一喜先生

2023.06.19

セミナーのお知らせです。

イメージングによる細胞膜上でのタンパク質構造解析

NIH 小橋一喜先生
日時:7月6日(木) 午後2−3時

場所:10号館1階105号室

要旨

細胞は外界と細胞膜によって隔てられているため、細胞膜を介した分子の輸送制御は重要である。クラスリン依存性エンドサイトーシスは真核生物の主要な細胞外物質取り込み経路のひとつである。タンパク質のナノスケールでの局在、相互作用、構造変化は、その重要な制御因子である。超解像イメージングにより、クラスリン被覆内の分子局在について理解が進んできているが、その分解能ではタンパク質複合体内でのタンパク質の構造変化を計測することはできない。蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)は、一般的に2つの蛍光色素の距離が10 nm以下の場合に起こる。したがって、構造変化や分子間相互作用の解析に使用できる。エンドサイトーシスの分子機構を理解するためには、回折限界分解能で得られたFRET情報をエンドサイトーシスの成熟過程と関連付けて解析する必要がある。そこで私たちは、FRET-CLEMと名付けた新しいFRETと金属レプリカ透過電子顕微鏡との光電子相関顕微鏡法を開発した1。この方法により、FRETに基づくナノスケール情報を、電子顕微鏡で可視化された細胞膜構造に直接マッピングできる。この方法を用いて、クラスリン被覆を構成するクラスリン軽鎖の、エンドサイトーシスの進行に従った構造変化を明らかにした。また、その構造変化を化学的に阻害することで、その構造変化がエンドサイトーシス進行に重要であることを示した。FRET-CLEMは開口放出部位やシナプスなどの細胞内コンパートメントにおける、細胞内環境と関連付けた膜分子の構造解析に応用できる。

 外部物質の取り込みと共に、ホルモンやシグナル物質などの細胞外への放出機構も重要である。神経細胞、神経内分泌細胞のカルシウム依存的開口放出はSNAREタンパク質により制御される。精製タンパク質を用いた研究によりSNARE複合体の詳細な分子モデルが構築されている。しかし、その構造変化が細胞内で、いつ、どこで、どのような分子間相互作用によって起こっているかは完全に理解されていない。位置特異的標識法とFRETを組み合わせることで、細胞膜上でのSNAREタンパク質構造変化測定を試みている。これまでの進捗と今後の展望について報告する。

  1. Obashi K, Sochacki KA, Strub M-P, Taraska JW (2023) A conformational switch in clathrin light chain regulates lattice structure and endocytosis at the plasma membrane of mammalian cells. Nature Communications 14, 732.

    連絡先名:平澤恵理 ehirasaw@juntendo.ac.jp