センターについて

開設にあたって

学校法人順天堂 理事長(初代センター長) 小川 秀興

アトピーは遺伝性の疾患であり、免疫性の疾患であります。特にIgE主導のアレルギーを主体とする疾患であるというのが定説となっております。私は、否定はせず、これは全て正しいと考えておりますが、近年、近代国家、特に日本に於けるアトピー性疾患の急増ぶりは目を見張るものがあります。これを考えたときに遺伝的ファクター、そして免疫異常というものに留まらず我々が近年変えてしまったもの、つまり環境的な要因が大きくこの発症と増悪化に関与しているとの信念を持っております。

十数年前、アトピー性疾患の病態として「皮膚粘膜バリアー機構の破綻」ということを国際小児皮膚科学会に提唱したときに大変な反発を受けましたが、現在ではこれが定説となるに至りました。環境の問題といいますと、公害とか環境汚染と結びついて考えられますが、そういうことだけではなく、我々が現代の便利な生活を行うにあたって失ってきてしまったもの、取り入れてきたもの、それらの差がアトピー疾患急増の大きな要因になっているということであります。かかる観点と、現在の日本国民の約1/3がアトピー性疾患にかかっているということを考えた場合、これは生活習慣病とも云えると思います。その様な環境因子と、発症に至る免疫、遺伝上の制御機構との関連というものを国内外の学者の英知を集め、研究し、本症の予防と治療の根幹を成す情報を世界に向けて発信する施設たらんと所員一同、邁進していく所存でございます。
(1998年)

順天堂大学 学長特別補佐 木南 英紀

アトピー皮膚炎、喘息、花粉症などのアレルギー性疾患は近年になって急増し、日本人口の1/3が羅患しているという、まさしく「現代病」であります。アトピー疾患は免疫異常を伴う遺伝的バックグラウンドの上に、諸々の環境的要因が加わって発症し、そこに内的および外的増悪因子が加わり、症状が増悪するという多面的、複合的な疾患群であります。その病因と病態に関する基礎的な研究に加えて、治療および予防に向けての対策が国内外で急がれております。

このような、社会的な要請の高い研究プロジェクトを推進できる構想と陣容を有する拠点として、アトピー疾患センターが順天堂大学医学部に私立大学学術フロンティア推進拠点選定事業として平成10年度に文部科学省(当時、文部省)から認可されました。小川秀興学長(アトピー疾患研究センター長)を中心とした学内外の研究グループの周到な準備と熱意・尽力および大学法人の多大な理解と決断により、アトピー疾患センター認可に至ったわけであります。 アトピー疾患研究センター開設後、順天堂大学医学部では、本センターを基地として、アトピー疾患を克服するために、基礎研究、臨床研究の両者を両輪として研究が推進されております。アトピー疾患が極めて複雑な免疫システムの応答の結果として発症することから、免疫異常の分子基盤を遺伝子、分子、細胞レベルだけでなく、個体レベルで解析し、総合的に免疫系、細胞内シグナル伝達系、転写の制御、細胞間接着のメカニズムとその異常を理解しようとする基礎研究が行われております。さらに、アトピー疾患を生体の恒常性維持の制御異常と捉えて、免疫、内分泌系、神経系のクロストークという今後の生命科学の重要な課題も視野に入れた研究が進行しております。

一方、アトピー疾患個別の臨床研究から、その背景にある共通の原理を見出すなどの可能性を探りながら、基礎、臨床の研究グループが連携した研究も行われております。アトピー疾患センターからインパクトのある、探索医療に結びつくような研究成果があふれるように生産されることを期待しております。
(1998年)

センター長あいさつ

センター長 奥村 康

当センターは、小川秀興先生の懐深い御理解とご援助の基、文科省からの多大な支援を受けて本学初めての研究センターとして1998年10月に創設されました。その後今日まで21年間にわたり多くの臨床・基礎の大学院生や学内外の医学研究者に利用され、幅広い発展と多くの成果を遂げてきました。その結果、そこでの研究成果を基に何人もの研究者が他大学の教授や研究者として巣立たれ、大活躍しておられます。それが当センターの誇りとするところです。
昨今は研究テーマも集約され、遺伝子、細胞、個体レベルでの研究が何人かのリーダーの研究者を軸にし、また臨床からの大学院生を中心に、意欲的に進められております。外部からの学術奨励金、国からの科研費、AMED等の支援も増加の傾向にあります。今後も学内のみならず海外も含め学外の研究者との輪を広げ、さらなる大発展をすることを願っております。
(2020年8月)

主な研究設備

研究事業助成金

1998-2002年度
文部科学省 私立大学学術研究高度化推進事業 「アトピー疾患の病因、病態、治療に関する分子医学的研究」

2003-2007年度
文部科学省 私立大学学術研究高度化推進事業 「アトピー疾患の病因、病態、治療に関する分子医学的研究」 延長

2008-2010年度
文部科学省 私立大学戦略的研究基盤形成支援事業 「環境・遺伝要因に着目したアレルギー疾患の病態解明と治療に関する研究」

2011-2015年度
文部科学省 私立大学戦略的研究基盤形成支援事業 「“バリア”に着目したアレルギー疾患の病態解明と治療のための研究拠点の形成