ペア型免疫受容体ファミリー CD300

ペア型免疫受容体ファミリー CD300
<伊沢、安藤、中野、北浦>

ペア型免疫受容体の特徴は、互いに相同性の高い細胞外領域をもちながら機能的に活性化型あるいは抑制型の受容体が存在することである。CD300(別名:leukocyte mono-immunoglobulin-like receptor (LMIR))は細胞外領域に一つの免疫グロブリン様ドメインをもつペア型免疫受容体であり、少なくとも8種類の遺伝子がマウスでは11番染色体(ヒトでは17番染色体)に連なる。CD300は主にミエロイド系細胞に発現し、CD300a(LMIR1)とCD300f(LMIR3)は抑制型CD300であり、他は活性化型CD300に属する(図1)。抑制型CD300は、細胞内領域にimmunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif (ITIM)をもち、抑制シグナルを伝える。他方、細胞内領域にシグナル伝達モチーフをもたない活性化型CD300は、immunoreceptor tyrosine-based activating motif (ITAM)を有するアダプター分子(FcRγやDAP12など)と会合して活性化シグナルを伝える。これまでの研究から、CD300は特定の脂質を認識してアレルギー・炎症を制御すると想定されている。

図1 CD300ファミリー

CD300f(LMIR3)について

CD300fは細胞内領域に2つのITIMと1つのimmunoreceptor tyrosine-based switch motif(ITSM)をもち、主にマスト細胞を含むミエロイド系細胞に発現する。我々は、CD300のリガンドをスクリーニングする系を確立し、CD300fリガンドとして脂質セラミドを同定した。一方、マスト細胞には高親和性IgE受容体(FcεRI)が発現する。IgEと抗原によりFcεRIが架橋刺激されると、マスト細胞は活性化(脱顆粒)して即時型アレルギー反応を引き起こす。我々は、CD300fとセラミドの結合がマスト細胞のFcεRIシグナルを抑制して即時型アレルギー反応を抑えることを明らかにした(Izawa,Immunity, 2012)。 
マスト細胞のCD300fにセラミドが結合するだけでは、CD300fのITIM/ITSMはリン酸化を受けない。しかし、FcεRIが架橋刺激されると、セラミドの結合したCD300fと架橋されたFcεRIは近接する。その結果、FcεRIの下流で活性化したチロシンキナーゼがCD300fのITIM/ITSMを効率よくリン酸化する。そこに動員される(チロシンフォスファターゼ)SHP-1/SHP-2がFcεRIの活性化シグナルを抑制する。CD300fはFcεRIの架橋刺激が入るとブレーキをかけてマスト細胞の過剰な活性化を抑える。実際、野生型マウスとCD300f欠損マウスにIgEとマスト細胞に依存する受動的皮膚アナフィラキシー(PCA)を誘導すると、CD300f欠損マウスにおけるPCA反応は著しく亢進する(図2)。また、CD300fとセラミドの結合を阻害する分子(セラミド抗体など)を投与すると、野生型マウスのPCA反応はCD300f欠損マウスと同程度に悪化する。他方、CD300fリガンドであるセラミドのvesicleを投与すると、野生型マウスのPCA反応は抑制される(図3)。現在、CD300fを標的とするアレルギー疾患の治療薬開発を目指している。

図2 模式図(分子機序)


 

図3 PCA反応など


 

<CD300f(LMIR3)に関する論文>

Izawa et al., J Biol Chem, 2007
Izawa et al., J Immunol, 2009
Izawa et al., Immunity, 2012 プレスリリース [File#07f_北浦グループ・プレスリリース]
Izawa et al., J Allergy Clin Immunol, 2014
Matsukawa et al., Gut, 2016 プレスリリース [File#07f_北浦グループ・プレスリリース]
Shiba et al., J Biol Chem, 2017
Izawa et al., Sci Rep, 2017 プレスリリース [File#07f_北浦グループ・プレスリリース]
Maehara & Kaitani et al., J Invest Dermatol, 2018
Ueno et al., Sci Rep, 2018
Takamori et al., J Allergy Clin Immunol, 2019 プレスリリース [File#07f_北浦グループ・プレスリリース]
Izawa & Kaitani et al., J Invest Dermatol, 2020
Uchida et al., Allergy, 2020
Kitaura & Murakami, Curr Opin Immunol, 2021 (review)

他のCD300(LMIR)について

CD300d1(LMIR4)は好中球に発現し、FcRγと会合する(Izawa, J Biol Chem, 2007)。CD300b(LMIR5)はミエロイド系細胞に幅広く発現し、DAP12と会合する(Yamanishi, Blood,2008)。CD300e(LMIR6)はパトローリング単球に発現し、FcRγ及びDAP12と会合する(Isobe, J Biol Chem, 2018)。CD300d3(LMIR7)はマスト細胞とマクロファージに発現し、FcRγと会合する(Enomoto, J Biol Chem, 2010)。CD300c(LMIR8)はプラズマサイトイド樹状細胞に発現し、FcRγと会合する(Kaitani, Sci Rep, 2018)。最近、CD300bがザイモサン(真菌酵母Saccharomyces cerevisiaeの細胞壁抽出物)に含まれる脂質フィトスフィンゴシンを認識して、炎症を促進することを明らかにした(Takahashi, Sci Signal, 2019)。

<他のCD300(LMIR)に関する論文>

Yamanishi et al., Blood, 2008
Yamanishi et al., J Exp Med, 2010
Enomoto et al., J Biol Chem, 2010
Yamanishi et al., J Immunol, 2012
Takahashi et al., J Biol Chem, 2013
Isobe et al., J Biol Chem, 2018
Kaitani et al., Sci Rep, 2018
Takahashi et al., Sci Signal, 2019 プレスリリース