Home > 成果報告(平成25~26年度の活動) > パネルディスカッション
内藤:病院が治すのではなく、病院が作ってしまうという考え。これは防がなければいけません。会場の皆さんはいかがでしょうか。よろしいですか。
では、せっかくこの絵が開いていますので、もう少し「赤くなったところ」について。濱田先生、在宅における、閉じこもってしまうような人たちとロコモとの関連性などについてはいかがでしょうか。
濱田:「ピンピンコロリ」というのが、お元気な皆さんが望んでいる人生の終末形ですが、最終的には加齢によって避けられないのがロコモティブシンドロームだと思います。順天堂大学が今回提案している「幸福寿命を長くする」という視点からすると、自分の身の回り生活に制限があっても、残っている機能でいかに社会とつながれるか、あるいは残っている機能をいかに維持していくかが大切ではないかと思っています。
外の世界と自分らしい生活の中でつながる通信方法や、自宅で自分らしい生活をしながらも、安心が担保されるようなシステムの構築がもっと必要ではないかと思います。
さらに専門的な医療が自宅に届くというシステムの構築が必要ではないかというのが、私達の提案です。
それからもう1つ、先ほど大江先生から、「ロコモの疾患は連鎖し、複合的になっていく」というお話を伺いました。たとえば心筋梗塞を起こした後、発症前はロコモでは無かったけれど心筋梗塞を起こした後に動かなかったことで、筋肉の力が落ちてロコモにつながっていく。 あるいは、私の専門の腎臓領域では、腎臓が悪くて安静を指示されていて、そのうちに筋力が落ちた、あるいは疾患の関係で骨の障害が一段と進みロコモとなった。これらの患者さんのロコモ発症をどのように予防するか、内臓疾患によってロコモになりやすいような患者さんに対して、どのように介入していくかについて、医療機関として提案できるものがないかと思っております。
内藤:伊坂先生、今の濱田先生のお話は、立命館大学の目指すところと、「赤いところ」でくっつきそうな感じですが。
伊坂:スマートウェアの開発が、医療認証が受けられるのであれば、在宅で着ていただいて、モニタリングを。電極もボルタのような重いものを付けると、たぶん嫌がる人もいらっしゃるので、肌着のようにして、しかも、うまく通信できれば、「つながっている」という話もできるような気がします。非常に関連性が出てくるのではないかと思います。
内藤:個人個人という完全な在宅ではなく、たとえば施設のようなところではいかがでしょうか。医療介護の人たちが集まるようなところで、新しい技術を用いて構築していくということで。
伊坂:おそらく、デイケアなどいろいろなところで、ツールとして使っていただけると思います。そのアプリケーションの作り方はいろいろあろうかと思います。逆に言うと、アプリケーションですから、場面や対象者に合わせて、いくつも組み合わせができると思います。遠隔地をつないで対抗戦をするなど、そうしたことができたりするのではないかと思います。
内藤:ありがとうございます。会場からはいかがでしょうか。遠慮されないで、素朴な疑問、あるいは提案等々、何かございませんでしょうか。 先ほど、町田先生のプレゼンで、地域に今後、実証的なことをしていくというお話がありました。今日は愛知県の東郷町から、健康作りの担当の方々がいらっしゃっているのですが、今日のプレゼンの中で、この点は次世代のロコモ予防、あるいは健康作りにとってどうしたらよいのかという、現実的なご質問などありましたら。
健康作り担当者:愛知県の東郷町から来ました。今日はありがとうございます。今のこの図で「青いところ」。さらにこちらのほうに続いて、ロコモ、転倒予防という視点から、幼児期からの取り組みも大事かもしれないと思って聞いておりました。私たちも町で実際に、幼児からの運動促進をしているのですが、先生達の視点で、「こうするとよい」と言ったことがあれば教えていただきたいと思います。
内藤:もっと対象を広げて、「青いところ」のもっと前の年代から。0歳から100歳の健康作り、ということですね。次世代のロコモ。もっと幅広く年代を考えるべきではないか、など。あるいは、実際の取り組みとして、どのような可能性があるのか。あるいは、逆にそこまで考えなくてもいいのではないか、など。いかがでしょうか。
石島:ロコチェックにて各年代平均より低い人は、将来ロコモになる可能性が高いと考えられています。しかし、30cmから片足で立ち上がれなかった方の中で、誰が、例えば膝の痛みを発症するのかについては、十分にわかっていない部分があります。しかし、関心を持っていただくのがまず大切です。そして、2020年のオリンピックなどとも関連しますが、運動をすることは同時に外傷、つまり怪我のリスクも高まることになります。外傷はその人の人生に影響を及ぼす因子となる可能性があることもまた事実です。たとえば膝の靱帯を損傷すると、数十年後の変形性膝関節症の発症のリスクが高くなります。しかし、中高年になると軟骨の摩耗が進んできますが、一般的な変形性膝関節症の発症にも、外傷が関係するというデータがあります。その際の外傷とは、靱帯損傷のような大きな怪我ではなく、つまずくなどの日常で起こり得るものです。その背景には、筋力低下があり、それに伴って怪我をしやすくなっている可能性があります。つまり、我々が想像するような怪我よりももっと軽微なものが影響している可能性があります。
また、心機能の低下により運動制限をされることで、運動機能が低下するというのは御理解いただけると思います。しかし、最近のデータでは、膝が痛い人は、痛みがない人に比べると、心筋梗塞の発生率が高いというデータがでています。確かに運動はできたほうが良いのは間違いがありません。一方で、人間は生まれて約1年間は自分一人では自由に動くことができないように、人生の最後にも自由に動くことが困難な期間が存在しなす。介護保険を必要とする期間がこれに該当すると考えると、現在は約10年間この期間が存在すると考えることができます。この10年を少しでも短くすることが重要であり、ロコモへの関心の高まりがそれに貢献できることができれば喜ばしいと考えています。そしてその運動を行う際には、いかに怪我をしないように行うかということもまた大切です。
大江:最近は整形外科の中でも、子どもの運動機能が落ちているという報告があります。また、運動を中高年以降に急に始めたことによるスポーツ障害やスポーツ外傷も結構多いので、私見では、将来続けられるような運動習慣をどのように学童期、若いときに持つか。その方法をどのようにしたら考えられるかを、スポーツを専門とされる方に。学校のときだけで終わってしまうのではなく、中高年になってもまたやろうと思ったら。やっていないことは大変ですが、1回やったことは結構大丈夫です。それをスポーツ専門の方はどのように思っていられるのか、むしろお伺いしたいと思います。
内藤:究極のロコモ予防が教育にある、ということですね。福永先生、鹿屋体育大学のホームページを見ると、「体育は体を育むと書く」というご挨拶文があります。福永先生、いかがでしょうか。
福永:僕も、先ほど伊坂先生がおっしゃったことが非常におもしろいと思いました。健康になるために運動するのではない。運動する目的は健康ではない。おそらく、それはそうですよね。
自分の体に対する正確な知識をしっかりと持ってほしい。自分の体は日々変わる。それは、やはり小中高でしっかりと、何の授業かわかりませんが、やっておけば。だから、こうなっているのだ、と。マニアックにも毎日測っています。体重はものすごく変動するのです。寝る前に測って、朝起きると、だいたい1kgぐらい違います。それは基礎代謝量に関係しています。それは測らないとわかりません。ウエスト、へそ周りも強烈に変わります。僕の場合、体重1kgの変動が、へそ周り1cmと見事に比例しています。
こうしたことは、自分の体を測らないとわからないので、ぜひ、スマートウェアで。私はすぐに使ってみたいぐらいです。
つまり、今の大江先生のお話にお答えするとしたら、体の教育。どのように変わっていくか。年を取るとどうなるか。自分自身の体がどう変わるのか。これは測らないとわからない。そういう気持ちで、やはり教育機関でしっかりと教えておけば、健康問題にも大きく影響を及ぼすのではないかという気がしています。
伊坂:子どもの体力の評価は皆、ご存じの通りで、草津市は体力が結構低い方です。調べてみると、草津市周辺にはマンションがたくさんあります。地上族と言って、だいたい80%がマンション住まいなのです。子どもさんがなかなか外で遊ばないということが、原因になっています。運動会などで、正直なところ、へたくそな走り方で走っている子どもたちを目の当たりにすると、まさに小さい頃からロコモ体操をしたほうが良いのでは、という気もするぐらいです。
一方で、ゲームをさせたら圧倒的に強いですね。ネットでの協調性について圧倒的に良いので。運動はできるのだな、ということからすると、学校が運動についてどのように正しい知識を教えるのか。一番良いのは、東京大学の入試に保健体育を入れていただければ。小中高と、入試に入れて。そうすれば体罰で荒れ狂うということもなくなるし、正しい自分の身体感を持ってくれるのではないかと思っています。
やはり、丁寧に子どもに運動することの楽しさを。昔のような場面がうまく設定できるような環境を作ってあげることが良いとは思いますが、ただ、子どもは結構忙しいですからね。塾へ行ったり、何かをしたり。スケジュールを見ると。やはり、学校が一番安全で良いのですが、学校も早く来られては困ると言って、場所によっては「もっと遅めに来い」という校長先生もいるようです。できれば20分ぐらい早く学校に集めて、少し運動をする、縄跳びをする、そうしたきっかけをつくると良いと思います。あるいはスマートウェアを学校でご用意いただいて、ジェスチャーゲームで対戦するとか、いろいろと楽しみながら自分の体を操作するということを覚えてもらう。そのようなきっかけにもうまく使っていただけたらと思います。
内藤:教育という面からは保健体育。どちらもスポーツ健康科学部を持つ大学として、そのあたり、日本はもっと考えていかなくてはいけないのではないかと思います。
ちなみに、東京大学では昔、体育の実技が入学試験にありました。
濱田:私は、今回のロコモ評価を行った企業の産業医ですが、初めて健康診断以外で身体活動・身体能力の検診を行いました。ロコモという言葉の認知は10%に満たないため、開始時は「これは何の検査ですか、メタボではないのですか」と、いった社員の理解度でしたが、終わってみれば5割以上の人がロコモを知っているし、「結果はまだですか」と、心待ちにされました。年齢にかかわらず、1年に1回でも定期的にロコモ検診が行われれば意識が高まります。「今回30cmの台で立ち上がれなかったら、来年はクリアしたい。それにはどうしたらよいのか」と、いう質問を多く受けました。やはり、「見える化」することが重要で、なんとなくわかるということがさらに先につながる活動だと思いました。