環境医学研究所の設立の意義

順天堂大学 学長特別補佐
木南 英紀

現代社会は私たちの生活をより便利にしてくれる物質で溢れています。しかしながら、これらの物質は、地球環境にも大きな変化をもたらし、その結果として思わぬ健康被害が発生する事態ともなっています。花粉症や喘息に代表されるアレルギー性の疾患のように、環境中の様々な物質が私たちの生体応答を狂わせてしまった結果生じたと考えられる疾患も日常的に見られるようになっています。しかしながら、これらの環境要因が人体にどのような影響をもたらしているか、その実態と発症機構についての研究は端緒についたばかりであります。また、環境要因によって発症する疾患の中には、特定疾患として認定されております肺リンパ脈管筋腫症のように女性特有の疾患が数多く存在します。このような環境要因によって引き起こされる疾患における性差の意義については全くわかっていません。
そこで、これらの環境因子に基づく疾患とそれにおける性差の意義の解明を強力に推進できる構想と陣容を有する拠点として、環境医学研究所が順天堂大学大学院医学研究科に文部科学省ハイテク・リサーチ・センター選定事業として文部科学省から平成14年度に認可されました。小川秀興理事長・学長(環境医学研究所長)を中心とする周到な準備と熱意・尽力および大学法人の多大な理解と決断により、環境医学研究所が認可に至りました。
環境医学研究所は、「アトピー疾患研究センター」、「老人性疾患病態・治療研究センター」につづく、本学大学院医学研究科の第3番目の研究所であります。本郷キャンパスに開設された本研究所は、医学部付属順天堂浦安病院の新棟の完成にあわせ、平成16年4月より浦安病院内に移設され、高度研究設備の本格的な運用が開始されています。さらに、平成17年4月より大学院医学研究科授業科目として「環境・性差医学」が環境医学研究所内に開講され、大学院学生の受け入れも始まっています。
環境医学研究所は、現代文明の発達に伴って生じた環境ホルモンやストレス、生活習慣など様々な環境要因による健康被害の原因の追求と治療、およびそれらにおける性差に基づく相違を臨床と基礎が一体となって分子レベルでの解明に取り組み、環境医学における最先端の情報発信基地となることを目指しています。また、環境医学研究所は、環境や性差医学分野の研究の発展を将来担うべき優秀な研究者を育てることも重要な使命としています。これらを推進するために、環境医学研究所は学内の研究者だけではなく、本研究所のプロジェクトに密接に関係する研究分野において世界的に高い評価を受けている他大学・研究機関や民間企業とも広く連携を進めております。本研究所から社会の要請に応えるインパクトのある研究成果が多数生まれることを期待しております。