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タイ政府のアクションプランのフォローアップ
タイの若年女性リーダーシップのフォローアップ
ワークショップ実施報告

本事業のプロジェクトの一つ、ASEAN10か国で実施予定のフォローアップワークショップは、最初の開催国としてタイでの実施が2022年11月に決定。日ASEANスポーツ大臣会合の議長国でもあるタイ政府の協力の下、2021年「ASEAN-JAPAN Workshop on Promoting Gender Equality in Sports」時に定めたアクションプランの進捗状況の確認、およびスポーツを通じたジェンダー平等推進のため、2023年1月29日から2月1日の4日間にわたり、首都バンコクで2つのフォローアップワークショップが開催されました。

左から、Niwat Limsuknirun氏、小笠原悦子氏
©Public Relation Sub-Division, Department of Physical Education of Thailand

タイ政府のアクションプランのフォローアップ
スポーツ関係者向けのワークショップ【1日目】

スポーツ・フォー・オールやスポーツの普及育成、学校体育、スポーツメディアに携わる男女を対象とした「スポーツ関係者向けのワークショップ」は、タイ観光スポーツ省体育局局長のNiwat Limsuknirun氏と、主催者である順天堂大学女性スポーツ研究センターのセンター長・小笠原悦子氏による開会挨拶で幕を開けました。小笠原氏は開催実現に感謝を述べ、「本ワークショップが、スポーツを通じたジェンダー平等に関して理解を深める有意義なものとなるよう願っています」とスピーチしました。

最初に登壇した順天堂大学スポーツ健康科学部助教の野口亜弥氏は、2021年にオンラインで行われた「ASEAN-JAPAN Workshop on Promoting Gender Equality in Sports」を振り返って紹介。日本政府は今後5年間でアクションプランのフォローアップとリーダーシップ研修を行う予定で、タイがその最初の国になったことなどが説明されました。

城西大学経営学部教授の山口理恵子氏は、「スポーツで見られるジェンダー課題」というテーマで登壇。社会にはいまだに根強い男女差別があることを近年のニュースや自身の経験などを交えて紹介し、ジェンダー平等を実現するためには、女性の地位向上だけでなく、男性自身・男性間の問題や世代間ギャップまで考える必要性があると説きました。
冒頭で挨拶したNiwat氏は、「タイのジェンダー課題を考えてみる」のテーマでプレゼン。

続いて、大手スポーツメーカー・ナイキでディレクターを務める森本美紀氏が「なぜ女の子はスポーツをしないの?」というテーマで登壇しました。セッション後半は会場外に移動し、タイの女の子がスポーツをしない理由をグループディスカッション形式で考え、代表者による発表が行われました。

1日目の最後には、野口氏が「セーフガーディングとスポーツ」というテーマで講義。弱い立場の人を、人権侵害から組織として守っていくセーフガーディングの大切さを説きました。セッション後半には再び山口氏も登壇。日本では盗撮を含む性暴力が問題視されていることなどを紹介し、性暴力そのものに加え、被害者への二次被害の問題も深刻であると力説しました。最後に野口氏は「スポーツ界では、被害者も被害に気づかない場合もある。まずはこのことを認識した上で、安心・安全な環境づくりが必要」として、セッションを締めくくりました。

スポーツ関係者向けのワークショップ【2日目】

最初の講義は野口氏の「開発と平和のためのスポーツ(ジェンダー課題)」。ツールとしてのスポーツが、社会やジェンダーの課題にどう役立つか、事例を挙げながらわかりやすく紹介しました。

次に、山口氏が「スポーツとメディア」をテーマに講義。日本では特に、メディアが女子や女性アスリートの容姿、笑顔を多く取り上げること、それに付随して女性の「痩せ」の問題などがあることを紹介しました。さらに、大手新聞・テレビ等メディアの女性社員が少なく、役員はほとんどいないことも問題であると指摘しました。後半は、タイのメディアについて、男女で分かれてグループディスカッションを実施。タイでも、男性スポーツの放送はあっても女子はないなど、メディアの扱いに偏りがあることがわかりました。山口氏は「メディアをどう活用すれば、さらに自国の女性スポーツが発展するのか、これから考えてもらいたい」と話しました。

続いての講義、「ロールモデルと女性アスリート」では、森本氏より、スポーツをする人にとっての、身近なロールモデルの重要性が語られましたロールモデルとして、JUMP-JAMプログラムを実施している児童館スタッフや、人種差別への抗議やLGBTQの啓発活動に力を入れている選手たちを紹介。またナイキでは、個々の女性アスリートの「彼女らしさ」を打ち出すことを重視していると実例を挙げ、「そのままの自分」であることの大切さを説きました。

次に行われたのはグループワーク。「スポーツでジェンダー平等を推進するための次のステップ」と題し、女性のスポーツ参加を阻害する課題の要因を深掘りし、課題解決に向けて話し合いました。例えば、女の子が、運動するモチベーションをもてない要因の一つとして、指導者の質の問題が指摘され、指導者育成のための政策や予算取りなどが解決策として挙げられるなど、スポーツ・政府関係者ならではの視点が語られる場面も多々ありました。

こうしてスポーツ関係者向けのフォローアップワークショップが終了し、最後にNiwat氏と小笠原氏が閉会挨拶に登壇。Niwat 氏は、「30年以上スポーツの現場に関わっていますが、自分の知らなかったことを含め、たくさんの意見を聞けてよかった。タイを最初の国に選んでいただき感謝します」と謝辞を述べ、閉幕しました。

タイの若年女性リーダーシップのフォローアップ
若年女性リーダー向けのワークショップ【1日目】

©Public Relation Sub-Division, Department of Physical Education of Thailand

13歳~22歳のスポーツリーダーが参加した「若年女性リーダー向けのワークショップ」では、全体的にアクティビティが豊富に盛り込まれたセッションが行われました。

初日の挨拶には、野口氏とNiwat氏が登壇。野口氏は「2021年「ASEAN-JAPAN Workshop on Promoting Gender Equality in Sports」では、ASEAN諸国の皆さんとワークショップを行いました。今回はタイでフォローアップワークショップが開催できたこと、ご尽力いただいた皆さんに感謝します」と挨拶しました。

講義に先立ち、まずはアイスブレイクを実施。若年女性リーダーたちに向けて講師・スタッフ陣が自己紹介した後、自己紹介ゲームで和やかな空気を作りました。

最初の講義は野口氏が「エンパワーメントの導入」と題し登壇。エンパワーメントとは、社会のなかで弱い立場の人が選択できる能力を身につけるための過程のこととし、例えば女性が社会的地位や権威をもつためには、女性自身の能力向上と併せて社会の変化も必要であると強調しました。エンパワーメントは、まず自分を大切にすることから始まるため、自分自身の目的を定め、それに向かって行動することが重要であると説明しました。

次に、山口氏が「Who’s the BOSS of your body?」と題し、講義を行いました。日本や世界での性被害・二次被害の事例を挙げ、男女共に被害に遭ったら勇気をもって声を上げようと呼びかけました。また、社会やメディアから過度に押し付けられる「女の子らしさ」も問題視。そして、冒頭に掲げた質問への答えを「I am.」つまり自分の体は自分のもの、自分で守ることが大切であると締めくくりました。

続いて、エンパワーメントのアクティビティを実施。屋外に移動し、マスクからも解放された参加者たちは、目標に向かって協力していくレクリエーションゲームや、みんなが平等に楽しめるルールを自分たちで追加したサッカーを楽しみました。本セッションを担当した、元サッカー選手で一般社団法人 S.C.P. Japan共同代表の井上由惟子氏は、「社会を変化させるために必要なスキルをスポーツの現場で疑似体験しながら学ぶことができる」と、このセッションの意図を語りました。

再度アイスブレイクからスタートした午後の講義。最初に登壇した森本氏は「ロールモデル」と題し、前日の「スポーツ関係者向けワークショップ」の内容を若年女性リーダー向けにアレンジして話しました。

左から、Pawina Thongsuk氏、Chanatip Sonkham氏

続いて、タイを代表する女性アスリート、Pawina Thongsuk氏とChanatip Sonkham氏によるトークショーを実施しました。

Pawina氏は体育の先生の勧めで14歳から重量挙げを始め、2004年アテネオリンピックで金メダルを獲得。国内競技者の80%が男性だったのでため、この競技を始めれば自分が先駆者になれると思った、と競技人生のスタートを語りました。Chanatip氏は、中学1年生の頃、テコンドーをしている選手を見て憧れたのがきっかけで競技を始め、2012年ロンドンオリンピックで銅メダルを獲得。引退した今も憧れていた先輩たちと交流があることなどを話しました。

二人とも、現役時代の練習環境は厳しかったが、性被害や外国人指導者との文化の違いによる問題などはなかったときっぱり。競技で成功を収めたことについて、Pawina氏は「成功の秘訣は、競技を好きであること、真面目に鍛錬すること」、加えて母や指導者の後押しも大きかったと語り、「勝ち負けにこだわらずリラックスして取り組んでほしい」とメッセージを送りました。Chanatip氏は「自分を信じること。勝負に固執せず、いろんなパスウェイを模索してください。ずっと応援しています」と、参加者に勇気を届けました。

若年女性リーダー向けのワークショップ【2日目】

2日目は体を動かすアクティビティからスタート。一般社団法人 S.C.P. Japan理事の繁浪由希氏が指揮を執り、ボールを使って楽しく動きながら和やかなムードを作りました。

最初の講義では、井上氏が登壇。セーフガーディングについて、女の子たちにもわかりやすくプレゼンテーションを行いました。安心・安全を担保するために、対等な関係性を大事にする、相手を批判しないなどの「約束ごと」を講義の冒頭でも丁寧に提示。スポーツにおけるセーフガーディングについて説明し、スポーツ現場ではどのような危険性があるかをグループごとに考えました。参加した女の子たちは、指導者からのハラスメントや暴力、大人が特定の個人やチームだけを贔屓するなどといった、経験に基づくエピソードをシェア。井上氏は、「一人で立ち向かえないときには誰かに相談を」と呼びかけました。

午後は、音楽と共に体を動かした後、森本氏が指揮を執って「自分の『声』を使って社会を変える」のワークショップを行いました。グループ発表では、体格差・能力差といった男女の障壁と、それに合わせてルールを変える、男女で一緒にできるスポーツをもっと作るなどの解決策を全員が発表。文化や価値観の違いといった障壁に関しては、インフルエンサーやSNSを駆使した啓発や、本ワークショップ開催を含む教育における解決策を求めました。様々な障壁に対してどんなアプローチがあるかを考え共有する貴重な機会となった今回のワークショップ。最後に森本氏は、「自分自身が自分の味方になってください。その上でルールや仕組みに疑問をもつと、解決策が見つかると思います」と呼びかけました。

こうして、若年女性リーダー向けのワークショップも終了。講師陣が一人ひとり挨拶し、感想と感謝を述べました。クロージングセッションでは野口氏とNiwat氏が登壇。野口氏は「私たちもタイのことをたくさん学ぶことができました。タイの女性がもっとスポーツを楽しめるように、皆さんの力を発揮してください」と呼びかけ、2日間のフォローアップワークショップを締めくくりました。

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