JCRWS 女性スポーツ研究センター JCRWS 女性スポーツ研究センター

News

「女性スポーツリーダーシップカンファレンス2012」開催報告 第1部

イベント

2012.11.24
2012年11月24日(土)、順天堂大学本郷キャンパスにて、「女性スポーツリーダーシップカンファレンス2012」を開催しました。当日は112名の参加者にお集まりいただき、活発な意見交換や参加者同士の交流が積極的に行われました。

ご挨拶

初めに、学校法人順天堂小川秀興理事長より主催者を代表してご挨拶し、続いて、文部科学省スポーツ・青少年局競技スポーツ課杉浦久弘課長からお話いただきました。そして最後に、後援をいただいた公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)の山口香理事からご挨拶をいただきました。それぞれ、インパクトとメッセージ性のあるご挨拶となり、大変有意義なカンファレンスとなることを予感させました。

conf2012-1

学校法人順天堂 小川秀興理事長

conf2012-2

文部科学省スポーツ・青少年局競技スポーツ課 
杉浦久弘課長

conf2012-3

公益財団法人日本オリンピック委員会 
山口香理事

第1部

「女性コーチ・サポートスタッフの現状と課題」
~調査結果やコーチング現場および諸外国の取り組みより、現状について情報を共有する~

コーディネーター:萩 裕美子(東海大学 教授)

発表者:

・佐藤 馨(びわこ成蹊スポーツ大学 准教授)
・鯉川 なつえ(順天堂大学 准教授)
・Ms. Isabelle Cayer(カナダコーチング協会 コーチングコンサルタント)

第1部発表者・コーディネーターのプロフィールはこちら(884KB)

第1部のコーディネーターを務めた萩裕美子先生

第1部のコーディネーターを務めた
萩裕美子先生

調査結果からの現状報告、諸外国の取り組みについて

びわこ成蹊スポーツ大学 准教授 佐藤 馨

佐藤先生からは、平成23年度に順天堂大学が、JOC女性スポーツ専門部会のご協力のもと実施した「スポーツ組織に関する調査」の結果より、スポーツ組織における団体役員の男女比が報告されました。これによると、世界では女性役員の登用率を20%に上げようという取り組みがある中、日本のスポーツ組織における女性役員の比率は4.2%と大変低いことがわかりました。また、スポーツ組織における理事会等役員の男女比に対する考え方については、76.3%の組織が、現状よりも増やしたいと考えているものの、実現できていないことが明らかとなりました。

発表を行った佐藤馨先生

発表を行った佐藤馨先生
さらに、役員選出の際に重視する項目を、各組織・委員会内での活躍・実績と挙げた組織が最も多く(84.6%)、女性を登用したい意向はあるものの、経験・実績重視という現状があることもわかりました。このことを受け、スポーツ組織内の意識改革と同時に指導的立場に就く女性の登用の制度化、女性自身における組織への働きかけ、女性リーダー育成プログラムの重要性などが提案されました。
次に、ロンドンオリンピック期間中に、JOC女性スポーツ専門部会が実施し、順天堂大学が集計・分析を行った「ロンドンオリンピック出場女性アスリートに対する調査」について、調査結果の一部が紹介されました。オリンピックに出場した選手の中で、引退後のキャリアについて不安を感じている女性アスリートが6割以上いるという結果が報告され、引退後に指導者として関わりたいと感じている女性アスリートは4割以上おり、また半数以上が女性に特化したキャリア教育サポートの機会やシステムが必要だと感じていることも明らかになりました。
最後に、オーストラリア、イギリス、アメリカにおける女性リーダーに対する取り組みの一部が紹介されました。

調査結果からの現状報告、諸外国の取り組みについて

女性アスリートを取り巻く現状について(コーチング現場から)
順天堂大学 准教授 鯉川 なつえ
鯉川先生からは、ご自身の経験をもとに、女性アスリートを取り巻く現状について、また、これまで行ってこられた調査結果などをもとに、コーチングの現状を踏まえお話しいただきました。1991年、鯉川先生が19歳の時、国際千葉駅伝において、5秒差で区間賞を逃したものの「19歳の最年少ランナー」と紙面に大きく取り上げられました。この時、区間賞を獲得したロシアのボンダレンコ選手が、ゴール直後に授乳をしている姿を目撃し、鯉川先生は衝撃を受けたといいます。20年前、日本が最年少に注目している頃、世界ではママさん選手が活躍していたというわけです。この衝撃を機に、鯉川先生は「女性アスリート」について深く考えるようになり、現役引退後、順天堂大学大学院に進み、研究を行いながら、陸上競技部を指導、女性アスリートのコンディショニングを意識した指導を行うようになりました。

発表を行った鯉川なつえ先生

発表を行った鯉川なつえ先生
鯉川先生らが実施した「実業団女子長距離ランナーの月経に関する研究」では、初経後、月経が止まったことがあると回答した女性アスリートが83%におよび、月経が止まることに対し、監督から「やっと一人前になったな」と言われたことがあるランナーもいる現状を報告しました。現在、大学陸上競技長距離(駅伝チーム)における女性監督は1名(鯉川先生)のみという状況も報告されました。さらに、現場における女性アスリートと指導者それぞれの問題点にも触れました。月経が止まってしまった時の相談相手や、理想の月経と競技についての女性アスリート自身の意識などの調査結果を紹介し、女性アスリート自身が自分の身体を知ること、またコーチやコーチングスタッフが女性の身体的特性を知ることの大切さを述べました。そして、女性アスリートが気軽に相談できるドクターやサポート機関とのネットワークの構築の必要性について言及し、締めくくりました。

女性アスリートを取り巻く現状について(コーチング現場から)

カナダでの取り組みについて
カナダコーチング協会 コーチングコンサルタント Ms. Isabelle Cayer

女性スポーツに関して、先進的な取り組みを行っているカナダコーチング協会より、イザベル・カイエ氏が来日し、カナダにおける女性コーチングプログラムの概要などをお話しいただきました。「カナダコーチング協会の女性コーチングプログラムは、社会がまだ理解していない何かを変えようとしている!」という言葉から始まったプレゼンテーションにおいて、カナダのスポーツシステムの概要、カナダコーチング協会女性コーチングプログラムの現状、女性コーチが直面する障害、女性コーチ・リーダーを採用するための戦略などについて、詳しく説明がなされました。

カナダでの取り組みについて発表を行ったイザベル・カイエ氏

カナダでの取り組みについて発表を行った
イザベル・カイエ氏

さらに、2013年4月から始動予定の新たなプログラム(A.C.T.プログラム;アスリートからコーチへのトランジションプログラム/Athlete to Coach Transition Program)について、その情報を惜しみなくご説明くださいました。その内容は、女性アスリートやすべての関係者に対し、「想像することが重要だ。想像できないものに、なれるわけがない」といった刺激を与えるというものです。女性リーダーを意識的に印象付け、その功績だけが重要なのではなく、次世代を担う子どもたちに対し、ビジュアルイメージを使って刺激を与えることの必要性について言及しました。このプログラムでは、数年後には現役を引退するであろう女性アスリートを選出し、OWN THE PODIUMとカナダコーチング協会(いずれも組織名)が財政支援を行います。そして、これまでと異なる点としては、きちんとした雇用の保障があり、プログラムを修了すれば活躍の場が保障されているものであるということです。また、A.C.T.プログラムは、国内の多くのスポーツ組織と、同様の目標を掲げ、評価するためのパートナーシップを結んでいるといいます。

カナダでの取り組みについて発表を行ったイザベル・カイエ氏

最後に、コーチングプログラムを構築する際の成功の秘訣とし、コーチになるためには何が必要かをビジュアルで理解できるようにすること、選手として大成するのに数年かかるように、コーチになるにも時間がかかるため周囲も長期的視野を持つこと、学んだ知識を実践・応用させる場を提供していくこと、「メンター」の必要性などが述べられました。優秀な女性アスリートを早く見つけ、コーチになっていくプロセスを支援し、次に雇用の機会をつくっていくということです。

たくさんのメッセージがこもった「あなたが望む変化を起こせ」という言葉とともに、カナダコーチング協会が、次世代のコーチになりたい子どもたちへ向けて作成した「Women in Coaching Program」のプロモーションビデオが流され、イザベル・カイエ氏の発表が終了しました。
一覧に戻る
Page Top