2月11日(土・祝)、「女性アスリート外来セミナー2023」をオンラインにて開催しました。
女性アスリート外来主催によるセミナーは、2019年12月に初めて開催して以来、毎回、女性アスリートのコンディショニングに関する様々なテーマを設けてシリーズ化してきましたが、ここ数年はコロナ禍により実施を見合わせており、今回、約3年ぶりに開催が実現しました。
当日は、女性スポーツ研究センターの鯉川なつえ副センター長が進行役を務め、女性アスリート外来からは婦人科と栄養部の先生にご登壇いただき、女性アスリートの問題点やその改善方法をわかりやすくお伝えするとともに、女性アスリート外来の成り立ちやコンセプトなどを共有しました。
女性アスリート外来として
セミナー実現への思い、伝えたいこと
女性スポーツ研究センター 北出真理副センター長
セミナーの開会あたり、女性アスリート外来責任者であり女性スポーツ研究センター副センター長の北出真理先生より、本セミナーの意義が語られました。
日本初となる女性アスリート外来が順天堂大学医学部附属順天堂医院および浦安病院内に開設された2014年頃、女性アスリートの3主徴「FAT(Female Athlete Triad)」が少しずつ周知されつつあったものの、自分とは無関係と考える女性アスリートも多かったといいます。女性アスリートの健康課題等に関する研究エビデンスに基づく情報を、女性スポーツ研究センターがウェブサイトなどを通じて発信してきましたが、さらに多くの方に知ってもらえるようにとの思いから「女性アスリート外来セミナー」の実現に至ったと語り、セミナーが再開できた喜びとともに「皆様が健やかに効率よくスポーツを楽しめるお手伝いをさせていただきたい」と挨拶しました。
基調講演
女性アスリート外来婦人科医 川﨑優先生
女性アスリート外来の現場から
「女性アスリートの課題と女性アスリート外来の活用」
まずは、女性アスリート外来婦人科医の川﨑優先生より、女性アスリートが起こしやすい不調や外来受診者が訴える主訴など、診療現場にみられる女性アスリートの現状について共有し、それらの症状に対する女性アスリート外来の治療方針についても言及しました。
川﨑先生によると、女性アスリートは小さいころから競技に本気で向きあっているが、知識がなかったり、女性アスリート外来に来られないことで逆効果や悪循環を生んでしまい、活躍したいときに疲労骨折などの問題が起きてしまっていると解説。そのような状況に陥らないために、女性アスリート向けに女性スポーツ研究センターが開発したオンラインヘルスチェックツール「PPE」を活用して健康状態を確認し、徴候が見られたら、これをきっかけに外来に相談に来てほしいと呼びかけました。
また外来について、日本では単独の診療科で女性アスリートを診ていることが多く、リンクができていないという実情があったが、当院では、モデル施設となったユタ大学にならい、女性アスリート外来という大きな枠でリンクして女性アスリートを支援するために、定期的にミーティングをもち、部署間で情報を共有しながら、症状や抱える悩みによって治療方針などを話し合っていることを紹介しました。
「“女性アスリート”というとハードルが高く感じるかもしれませんが、運動している人はみなさんアスリートですし、月経につき合いながらスポーツをしている。月経周期による体の不調やパフォーマンス不振といった程度のことでも受診してもらいたい」と語りました。
良好なコンディションで競技に臨んでもらうために
「エネルギー不足の改善と予防」
続いて、女性アスリート外来開設時から栄養指導を担当している公認スポーツ栄養士の佐藤郁子先生より、エネルギー不足の改善と予防について栄養の観点からお話しいただきました。
バランスの良い食事とはどういうことなのか、エネルギー不足やアスリートが陥りがちな省エネな身体についても解説し、その改善方法に至るまで、図表や具体例、論文などを紹介しながらわかりやすく解説しました。
佐藤郁子先生
さらに、外来受診から栄養指導の流れ、オンライン受診もできるようになっているなど、気軽に利用できるものであることを強調。栄養部では、このセミナー前にスポーツをしているジュニア年代に向けた栄養相談体験会も行っており、栄養相談・指導の必要性を痛感。今後も実施していきたいとの意気込みを語りました。
公認スポーツ栄養士は“選手が自己管理できるように伴走する役割”なのだと話し、「アスリートが目的を達成できるよう一緒に考えていくので、些細な徴候でも一度相談に来てしてほしい」と訴えかけました。
質疑応答
次に、チャットで受け付けた参加者からの質問に対し、川﨑先生、佐藤先生にご回答いただく質疑応答に移りました。
川﨑先生へは、ピルの服用やホルモン療法など医療現場での専門性の高い質問から、月経中の運動についてといったアスリート目線での質問まで、幅広い内容の質問が寄せられました。
佐藤先生への質問は、省エネな身体の体質改善についての質問が多く見られ、さらに聞きたいという参加者からの思いが伝わってきました。中には「女性アスリート外来は何歳から受診ができますか」という女子アスリートからの質問も(※女性アスリート外来は何歳からでも受診可能です)。質疑応答の時間では答えきれないほどの質問数と多種多様な質問内容に、女性アスリート外来や女性アスリート診療への関心の高さがうかがえました。
小笠原悦子センター長
女性アスリート外来と女性スポーツ研究センターが連携し
女性アスリートを支援していきたい
最後に、女性スポーツ研究センターの小笠原悦子センター長から、「女性スポーツ研究センターは女性アスリート外来と連携して運営しており、女性スポーツ研究センターのウェブサイトには女性アスリートを支援するために開発した様々なツールや情報が掲載されていますが、その基礎データには女性アスリート外来に来院された方々の貴重なデータも含まれています。女性アスリート外来も女性スポーツ研究センターも、女性アスリートをサポートする主旨で存在しているので、大いに活用いただきたい」との閉会挨拶があり、研究と医療現場の連携を具現化した女性アスリート外来のセミナーは盛況のうちに幕を下ろしました。