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「女性アスリートアクティブサポートセミナー2019」を開催しました!

イベント

2019.03.07

「女性アスリートアクティブサポートセミナー2019」開催報告

【プログラム】

<基調講演>

アスリートなら知っておきたい睡眠のはなし  ~月経時の脳波測定からわかってきたこと~ 
 葛西 隆敏(順天堂大学大学院医学研究科心血管睡眠呼吸医学講座 准教授)

<パネルディスカッション>
「どうしてる? 月経中のスポーツ活動  〜Everyday, Be Active!〜」
パネリスト:
沖  美穂(自転車ロードレース シドニー・アテネ・北京オリンピック出場 / 公益財団法人JKA /JOC女性スポーツ専門部会員/日本自転車競技連盟女子強化育成部会員/
      順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科博士前期課程在籍)

三宮恵利子(スピードスケート 長野・ソルトレイクシティオリンピック出場 / スケート解説者 / 日本自転車競技連盟理事 )
安達阿記子(ゴールボール 北京・ロンドン・リオパラリンピック出場 ロンドンパラリンピック金メダリスト/順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科博士前期課程
      在籍)

北野 香代(日本ハンドボール協会日本代表女子ユース(U18) GKコーチ・ナショナルトレーニングアカデミーGKコーチ /横浜市立六角橋中学校養護教諭)
松村 優子(順天堂大学医学部産婦人科学講座助手、同附属順天堂医院女性アスリート外来産婦人科医)
コーディネーター:鯉川なつえ(女性スポーツ研究センター副センター長 / 順天堂大学 スポーツ健康科学部 先任准教授)
“睡眠と生理用品であなたのパフォーマンスが変わる⁉”をテーマに、「女性アスリートアクティブサポートセミナー2019」を開催しました。
女性アスリートが様々な課題から解放されることによって、よりアクティブになってほしいという願いを込めて開催された今回のセミナー。基調講演では女性アスリートの「睡眠」について、パネルディスカッションでは、「生理用品」について、女性スポーツ研究センターが実施したアンケート調査結果も提示しながら、どう改善したら Active になれるのかを模索しました。

厳しい寒波に見舞われた一日でしたが、遠方からの来場者を含め、129名にご参加いただき、登壇者の熱いコメントや参加者からの真剣味を帯びた質問によって、会場は熱気に包まれました。


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基調講演

順天堂大学大学院医学研究科寄付講座(心血管睡眠呼吸医学講座)准教授であり、女性スポーツ研究センターでは「女性アスリートの睡眠の質の低下に影響を及ぼす因子に関する研究」を実施されている葛西隆敏医師が、「アスリートなら知っておきたい睡眠のはなし ~月経時の脳波測定からわかってきたこと~」と題し、基調講演を行いました。
睡眠のメカニズムなど一般的な知識をわかりやすく解説し、睡眠障害の実情、性別や年齢による疾患の違いといった専門医ならではの情報も。その後、アスリートの睡眠について、研究によって得られたデータなどをもとに、女性アスリートと月経の関係や、パフォーマンスをよりよいものとするための睡眠のヒントをお話しいただきました。

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貴重なデータを活用しながら、わかりやすく解説していく葛西医師。参加者はメモを取りながら熱心に聞き入っていました

パネルディスカッション

「どうしてる? 月経中のスポーツ活動 ~Everyday, Be Active!~」と題したパネルディスカッションは、女性スポーツ研究センターの鯉川なつえ副センター長(順天堂大学スポーツ健康科学部先任准教授)がコーディネーターを務め、「女性アスリート・パラアスリートへの生理用品に関する調査研究」の結果を示しながら展開されました。パネリストには、アスリート、指導者、養護教諭、医師といった様々な立場の専門家をお迎えし、競技・指導経験や海外経験が豊富なパネリストならではのエピソードを披露していただきました。

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現役選手ながらゴールボールの指導や普及にも
携わり、さらには「心のバリアフリー」推進のための
講演活動も続けている安達阿記子さん
生理用品とパフォーマンス

昨年度から、女性スポーツ研究センターでは、日本のトップアスリート・パラアスリートを対象に、生理用品に関する調査を実施しました。これによると、「生理用品が原因でパフォーマンスが下がっていると感じる」と51.9%ものアスリートが回答していました。
そこで、まずは現役時代に様々な競技で活躍されてきたパネスリトの皆さんに、「実際に、競技中にはどんな生理用品を使っているのか」をお聞きしました。
密着性の高いユニフォームを着用するスピードスケートや自転車競技、審美系のバレエではタンポンが主流。ゴールボール現役選手の安達阿記子さんは、タンポンが身近でない原因として「視覚障害があるため情報が入りにくく、従来使用していたものを継続して使う傾向があり、ほかのものに手を伸ばす機会がありませんでした。これを機に使用してみて自分が感じたことを伝えてあげたい。いかに良い情報を選手に渡すかが重要ですね」と貴重な情報とともに語りました。
競技によっても異なる「3大れる問題」

生理用品によるトラブルとして、調査結果から浮かび上がってきたのが、“むれる・もれる・ずれる”の「3大れる問題」。ディスカッションでは、競技によっても違った問題を抱えていることが明らかになりました。
三宮恵利子さん(スピードスケート)は、「コーナリングの時に足を交差するため、ナプキンがズレてしまうのでタンポンを使用することが多い。また、身体のケアをするためのインターバル時間もトイレに行かなくてはいけない、月経時には絞めつけが強いインナーをはくことでパフォーマンスにも影響が出る」など、上下つながったタイトなウエアを着用することによる月経時の負担について語りました。ゴールボールの安達さんからは、ユニフォームの中にプロテクターを着用し相当量の汗をかくことから、ナプキンをつけてもよれてしまうという、競技特性による事例も紹介されました。

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現在、小学生の指導にあたっている三宮恵利子さんは
「タンポンという言葉すら知らない女子アスリートも
いる」というエピソードを披露

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中学の養護教諭で2児の母でもある北野香代さんは
「月経と生理用品は、次世代の女子アスリートにとって
これからの課題」と語る
海外に比べ低い、日本のタンポン使用率

生理用品に関する調査におけるタンポン利用者の回答をみると、「3大れる問題」はタンポンを使うことでほぼ解消できていることがわかります。しかしながら、まだ日本での使用率は試合時でさえ30%程度と大変低い状況です。
欧州でのプレー経験を持つ北野香代さんは、「デンマークでは100%ピル、タンポンでした。『それを使っていないカヨは、私たちと同じパフォーマンスができるの?』と言われたときに、知らなかった、使用したことがないで済ませている恥ずかしさと、先進国では勝つために選手がここまでパフォーマンスを追及していることに驚きが込み上げました。全日本ジュニアや学校現場でも指導していますが、トレーニングや栄養摂取や休養を取ることと同じように、これは勝つためのひとつの手法なんだよというアプローチはいかがでしょう」と提言。 さらに、月経=性について、日本における認識、固定観念がそれを阻んでいる可能性もあると、養護教諭としてのジレンマも語りました。

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「産婦人科医としても、月経や生理用品の悩みも競技
種目によって異なることを認識してアプローチを変えて
いく必要がある」と女性アスリート外来の松村優子医師
意外に悩んでいる、アスリートの“尿モレ”

女性アスリートの身体・生理的課題として、今回の調査では「尿モレ(軽失禁)」についても、全体の24.8%のアスリート・パラアスリートが悩んでいることが鯉川副センタ―長より紹介されました。そのうち半数は「対策を何もしていない」と回答しており生理用ナプキンやおりものシートとは違う吸収体を使用した専用の吸水シートの周知・普及の必要性も明らかになりました。
これについて松村医師からは、「おなかにグッと力を入れることが多いアスリートは骨盤底筋群に日々力が入っているため緩みやすく、そのため腹圧がかかった時に膀胱内圧が上がり腹圧性尿失禁が起こりやすい」と説明がなされました。北野さんから出産後に競技へ戻るアスリートへのケアの必要性について質問が出た際には「女性にとっては直面する問題。尿モレ経験をすると、ついセーブしたり、気持ちもマイナスになりがち。アスリートとして鍛える筋肉とは違うので、少しの意識で骨盤底筋群が鍛えられるということも広めたいですね」と話した。
“よりアクティブに女性アスリートが活躍するには

パネリストからは、手に取りやすいパッケージへの改良、使い方や正しい知識の情報開示、スポーツ用品店や下着売場といった販売経路の開拓など、多くのアイディアや提言がなされました。
競輪学校で教鞭をとった経験もある沖さんは、入学前の事前研修で、タンポンを勧めるとともに、股ズレを予防するクリームの説明をしていると紹介。多くの生徒がタンポンの使用経験がないため、自身の経験談と併せ、製造販売元の企業から説明してもらうことで安心感も上がっているといいます。
さらに、自転車日本代表の女性選手とのエピソードも披露してくれました。アメリカの合宿先で生理用品売場の広さ、スポーツ用生理用品の充実ぶりを目の当たりにした選手から、日本にいる沖さんにテレビ電話がかかってきた時のこと。スーパーマーケットにある生理用品をライブ中継しながら「『もうこの時点で日本負けてませんか? 私たちはメダルを獲るためにがんばるから、沖先生はオリンピックまでにこの状況を変えて!』と言われたんです。そう話した選手たちは、今年に入ってワールドカップで二人とも表彰台に乗ることができ、メダル候補に入っていますので、私も頑張らないと(笑)」と語りました。

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修士論文「ガールズケイリン選手におけるスキンケアの
セルフマネジメントで研究したデータをもとに現状を
紹介した沖美穂さん
最後に、コーディネーターを務めた鯉川副センター長は「女性スポーツ研究センターでは今後も様々な情報・データ等をインターネットでどんどん流していきますので、ぜひキャッチしていただきたい。月経でも、いや、むしろ月経の時のほうがアクティブに競技に取り組めるぐらいの、“Be Active”なプロダクトを皆さんの手元にお届けできるような活動をこれからもしていかなくてはいけないと思っています」と力強く締めくくりました。

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当センターによる調査結果のダイジェスト版を参加者には持ち帰ってもらい
女性アスリートの目に触れる場所への掲示を促しました

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コーディネーターを務めた鯉川なつえ副センター長
女性スポーツ研究センターでは、情報をもっと多くの方に共有していただけるよう、「女性アスリート・パラアスリートへの生理用品に関する調査研究」の成果を本サイト上にアップしています。また、調査結果ダイジェスト版もダウンロードしていただけます。

女性スポーツ研究センターによってデザインされた、女性アスリートのためのソフトタンポン「アスリート」のサンプルを無料でお試しいただけます。パッケージにはアスリートの声や研究データ、使い方の動画が見られるQRコードなどが記載され、初めての方でも安心してお使いいただけます。

「無料サンプル応募フォーム」はこちらから
※無料サンプルの配布は、2020年4月30日をもって終了しました

閉会挨拶

日ごろ公然と話すことの少ないデリケートな問題について、登壇者だけでなく参加者からもたくさんの発言がみられた今回のセミナー。
閉会の挨拶に立った小笠原悦子センター長からは「アスリートたちを、いかにアクティブにさせるかというテーマで、セミナーや研究を行ってきておりますが、みなさんの手に届かなければ何の意味もないと、私たちは思っております。アスリートのためのタンポンやナプキン、ライナーが世の中に出るように心から願っています」と熱い思いが語られました。

参加者からは「トップアスリートのリアルな声が聞けてよかった」、「指導している子たちにぜひ伝えたい」などポジティブな声が多く聞かれ、盛況のうちにセミナーは幕を閉じました。
 

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託児ルーム

今回のセミナーでも、施設内に「託児ルーム」を設け、専門のスタッフを配置しました。小さいお子さんのいる参加者やスタッフも安心して、セミナーに参加していただきました。

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※本セミナーは、スポーツ庁委託事業「女性アスリートの育成・支援プロジェクト(女性アスリートの戦略的強化に向けた調査研究)」の一環で開催しました
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